近状報告と思いの叫び。好きなものは好きだと叫びたい年頃。
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<恋焦がれても、叶わない。>
※要BL注意!
※要BL注意!
昼休み。
私はいつものように幾人かの友人達と共に屋上で昼食を取っていた。
それは、さながら簡易ピクニックのようで、毎日繰り返されてはいたが飽きはしなかった。
私の右隣には隣のクラスの戸波君が、左隣には戸波君と同じクラスの佐和君が座り、私の目の前には私の幼馴染である稲崎君が居る。その稲崎君の左隣、私から見て右隣で戸波君の右隣でもある場所には滝野君が座って稲崎君に絡んでいた。
私と稲崎君は同じクラスで、滝野君は私達とも戸波君たちともまた別クラスだ。
私達は大抵、この5人で行動することが多い。といっても、それは学校にいる時のみで、部活や委員会があるときを除いて、放課後や休日などは一緒に居ることは少ないが。
私は両隣の戸波君や佐和君と、他愛のない、それでも愉快な会話を繰り返し紡ぎながら、ちらりと目の前に座っている稲崎君を見た。
稲崎君は、大抵いつもそうであるように、無愛想で不機嫌な表情を浮かべながらも、絡んでくる滝野君とじゃれていた。
その口元は、微かに緩んでいる。
それに気付いて、見なければ良かったと後悔する。
そして、半テンポ遅れて胸がちくちくと痛む。
稲崎君は他人に興味を抱くことが少ない。人を寄せ付けない不機嫌な表情と無愛想な態度で、壁を自ら築いているような人間だ。
それでも、彼の凡人とは一線を画した左右対称の綺麗な顔立ちが、主に女性を中心に、彼を一人にさせてはくれないようで、その過剰なまでのアタックにより現在は女性に対して恐怖心が湧いてきたらしい。
それを知っている私にとって、彼がつい最近であったばかりの人間に対して、気を許したように、もしくは無意識だとしても、表情を動かすなど信じられないことだった。
その現実に、じりじりと胸を焦がしては、くだらないと吐き捨てて知らない振りをしている私は、実に愚かしい生き物だ。
「あっれ、どうしかしたー? 柚木原クン?」
ぼうっとしていた私を不審に思ったのか、戸波君がそう気遣ってくれた。
私は、なんでもありませんよ、と頭を振って答え、再び戸波君や佐和君との会話の中に逃げ込んでいく。
会話に熱中しようにも、稲崎君が気になって仕方がなくいまいちテンポが遅れてしまうということを何回か繰り返したところで、昼休みの終了を告げる予鈴が煩く響いた。
それを合図に、広げていた弁当やら何やらを皆で一斉に片付け始める。
「うわ、次、移動教室だったよね、ボク達! いこっ、佐和クン」
「………、……うん」
5人の中で一番身長が低い戸波君が、焦ったように、5人の中で一番身長が高い佐和君の腕を引っ張ってばたばたと移動し始めた。
それに習って滝野君もばたばたと慌てて屋上を後にする。
そんな3人を微笑みながら見送っていた私は、彼らが屋上から姿を消した後、ゆっくりと後ろを振り返った。
「……授業に、遅れますよ?」
「……。」
そこには、じっと動かず佇んでいる、稲崎君。
その表情は俯いているせいで、よく見えない。
どうか、したのだろうか……?
「稲崎、君?」
自分でもどうしてそんなに遠慮がちに声を掛けたのだろうかと思うくらい、躊躇い気味に声を掛ける。
と、次の瞬間、私は腕に圧迫感を覚え、気がついた時には私は稲崎君に抱き寄せられる体勢を取っていた。
「ちょっ……何ですか!」
私の講義を聞き入れる気はないのだろう。
彼は自分勝手に私の問いを無視し、あろうことか征服である白い開襟シャツのボタンを上から順に外していく。
抵抗したら、きっと引きちぎるだろう。
そんなことを予感させる顔つきだった。
「い、稲崎君っ……!」
「だまってろ」
そういって、彼は、暴かれた私の鎖骨に、自分の、唇を、近づけた。
そして、きつくその箇所を吸われる。
鏡など見なくても解る。きっとそこには赤い痣のような印がついた。
「何、……」
「ユキは俺のだ」
息を呑むほど美しい顔と鋭い目で、射抜かれた。
心臓が、大きな音を一度だけ立てて鳴った。
「ユキは、俺のだ。そうだろう?」
彼は私をユキと呼ぶ。それは幼い頃から変わったことがない。
私の苗字が『柚木原』で、『ユキ』と呼ぶより『ユギ』ではないのかと、他人にからかわれた時も、彼は変わらず『ユキ』と呼んだ。
そんな、どうでもいい昔のことを思い出した自分に、心の中で苦笑した。
「だから、俺以外の前で、あんな楽しそうな顔して喋るな」
全く持って、なんて酷い独占欲だろう。
それでも、それを心地よいと思い許してしまうのは自分だ。
「……わかりました、気をつけます」
「……それなら、いい」
言いたいことは全て言ったというかのように、稲崎君は私に背を向け、歩みだした。
彼がスチールでできた安っぽい扉を開けて、ここから去るまでの間、彼は一度も私の方を振り返らなかった。
その背中を見て、先程までじんわりと広がっていた甘い疼きが、途端に鋭く激しい痛みに変わる。
貴方は、ズルい。
私のことを好きでもないくせに、こんな風に独占欲を剥き出しにして私を縛る。
貴方が、本当は誰に惹かれているのかなんて、私にはお見通しなのに。
どんなに恋焦がれても、私の思いは叶わないと知っているのに。
それでも、諦めることができないのは、長い間傍に居たからだろうか。
長い間傍に居て、苦しみも喜びも共有してきたからだろうか。
「………」
目を閉じて、あの独占欲を剥き出しにして嫉妬した彼の美しい顔を思い出し、溜息をつく。
「……本当に、タチが悪い…」
吐き捨てるように自嘲して、5限目はサボろうとぼんやりと思った。
≪恋焦がれても、叶わない。≫END
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